リアルタイム超高感度分析

環境・大気

大気中の微量ガス成分、エアロゾルの観測

大気中の微量ガスやエアロゾルのリアルタイムでの観測は、それらの生成・消滅挙動を明らかにするだけでなく、自然由来の物質であれば自然現象の変化の掌握、 人為起源物質であれば発生源の特定、あるいは越境汚染の状況、大気汚染対策の立案、その後の大気質改善の確認などに役立ちます。私共の取扱装置では、 特に従来計測が困難であった物質の計測や高時間分解能測定に特色があります。適用例は例えば以下に挙げられます。
① 高分解能プロトン移動反応TOF質量分析計で大気中の整数質量数57と67の同重体を測定した例を示します。整数質量数57では、主として植物由来の イソプレンと主として燃焼由来のフランが、整数質量数67でブテンとアクロレイン(及び一部のメチルケテンを含む)が精密質量数で分離でき、 その時系列変化のパターンからそれぞれの主な発生源の推定されます。

② 航空機に量子カスケードレーザー赤外差分吸収分光計を搭載して、飛行航路上のホルムアルデヒド及びギ酸を移動観測した例です。両者は直接の排出のみな らず、大気中における光化学反応生成物としても極めて重要で、これらの汚染地図をリアルタイムに描くことで光化学大気汚染の解明が一歩前進します。

③ 都市域で、ある一日の大気エアロゾルの粒径及び組成の変化を四重極質量分析計搭載型エアロゾル質量分析計で観測した例を示します。主にラッシュ時に 生成した比較的小粒径の有機物粒子が光化学反応を受ける様子と、風向きの変化により火力発電所で生成した小粒径の硫酸塩粒子が移流により観測され、 その後に成長する過程が見られます。


農学・自然科学

生物の関わる現象の観測

植物や昆虫は生命活動で代謝物質を生産、放出しているのみならず、例えば危険を察知したり、ストレスを感じたときに、 特定の揮発性有機化合物を放出して同種あるいは異種間の通信手段とすることがあります。
① アワノメイガ系の芋虫に加害されたトウモロコシ葉から幾種類かの加害植物揮発性成分が放出される様子を、 高感度版プロトン移動反応質量分析計で観測した例を示します。最初に単純な機械的傷葉によりへキセノールやメチルプロパナールが放出されますが、 加害された葉が芋虫の唾液と接触すると、次第にインドールが放出され、天敵の寄生蜂を誘引します。

出拠 Dr. Ted Turlings Dr. Matthias Held Universite de Neuchatel

② 農業生産によるVOCや温暖化ガスの生成あるいは沈着のフラックス測定において、渦相関法は最も仮定条件の少ない直接的方法ですが、 高感度かつ応答速度の速いモニタリング装置を必要とします。本例では多年生牧草の刈り取り、乾燥干し草化のときに放出されるメタノールおよびアセトアルデヒドのフラックスを、 三次元超音波風速計と高感度版プロトン移動反応質量分析計の組合せによる渦相関法で測定しています。

③ 細菌の増殖は、産生する代謝物質をモニタリングすることにより検知することができます。 高感度版プロトン移動反応質量分析計で追跡した例では、細菌の種類により産生物質およびその変化のパターンが異なることが理解されます。 これより増殖した細菌の種別を特定することが可能となります。



食品・香料

芳香成分、臭気成分の測定

人が感じる芳香あるいは臭気は、物質によってはpptレベルの閾値を呈し、かつ人の官能は瞬間的な場合が多くあります。このためGCやGC-MSとリアルタイム計測機器を相補的に 使用することで、これらが関係する製品の開発や評価試験を強力に支援することができます。
① 本例では、イチゴ風味の乳飲料を飲んだときの鼻腔内空気を高感度版プロトン移動反応質量分析計で測定しました。代謝物質イソプレンの上昇が呼気を示し、 呼吸サイクルを表しています。イチゴのフレーバーである酪酸エチルは呼気中で一瞬に上昇し、鼻から感じる芳香が、風味の味わいに重要であることを示しています。

② 次の例では、エスプレッソを淹れたときの香りを高感度版プロトン移動反応質量分析計で測定し、種類による芳香物質放散の変化の違いから予測される香りのプロファイルを、 パネラーによる官能試験と比較したところ、両者はよい一致を示しました。コーヒーの香りには多種の芳香物質が含まれますが、単に個々の物質単独の増減だけでなく、 相互の比率や余韻を感じさせる時間変化のパターンも重要であることが理解されます。

③ 室温20℃の環境で肉を放置した場合の還元性イオウ化合物の発生を、高感度版プロトン移動反応質量分析計で測定した例を示します。 丸一日を過ぎると嫌気性菌の増殖で急激に腐敗が進行し、強い腐敗臭が発生することが理解されます。


自動車

自動車排ガス中の未規制物質、粒子成分の連続測定

① 現実に走行している車両の中で高排出車を見出す手法として、クロスロードリモートセンシングあります。リトロリフレクターを使用したオープンパス方式 が一部知られておりますが、本例では道路を横断して細孔を数箇所開けたサンプリング配管で、車両が通過する瞬間の排ガス濃度の変化を追跡し、 クローズドパス方式の量子カスケードレーザー赤外差分吸収分光計で二酸化炭素と亜酸化窒素の濃度を計測して、亜酸化窒素の排出計数を求めています。

② 次は四重極質量分析計搭載型エアロゾル質量分析計で、シャシーダイナモ試験における大型車からの微粒子排出を測定した事例の一部です。 成分により挙動はやや異なりますが、回転数の大きな上昇時に潤滑油に起因する主として有機成分粒子が排出されることが示されます。


化学・化学工業

プロセスおよび工程管理

一般的なプロセス分析計であるプロセスガスクロマトグラフや近赤外分光光度計では、比較的高濃度の成分のみが対象となりますが、微量物質のモニタリングや 代謝物質によるバイオリアクターの管理では、より高感度なオンライン分析計が求められます。こうしたプロセスの運転管理や品質管理は多くの可能性が拡がります。 ① 残念ながら多くの例は開示できませんが、化学プラントの敷地内の漏洩監視の例をここに示します。12地点の雰囲気中の硫酸ジメチル濃度を、 高速多点切換えサンプリングにより高感度版プロトン移動反応質量分析計で測定しており、2つの警報レベルを設定して漏洩監視を行っています。


燃焼診断および排ガスモニタリング

従来、焼却炉あるいは燃焼炉の煙道排ガスの連続分析計は、排出規制に係る物質の分析か、燃焼空気量の制御に係る項目の分析が中心で、一方、燃焼診断といった場合には、 炉内での一酸化窒素、一酸化炭素、アセチレンやOHラジカルの分布を可視化して燃焼状態を診断しようとする試みを指すものでありました。 私共の提携先の三友プラントサービス株式会社では、多種多様な化学系の産業廃棄物を焼却処理し、またフロン破壊処理を早くから行っているため、より多種の排ガス中の物質を連続モニタリングし、 廃棄物性状により大きく変化する燃焼条件の最適化を行いたいという強い要望があったため、燃焼診断を含めた包括的な排ガスモニタリングシステムを開発し、適用を図りました。
① 高感度版プロトン移動反応質量分析計で、排ガス中のダイオキシンの指標物質であるクロロフェノール、ナフタレンを含む揮発性および半揮発性有機化合物をオンラインモニタリングする例を示します。 ベンゼンのスパイク状ピークは、発熱量の大きな廃棄物のやや過大な投入により局所的な高温が生じ、炉内でのベンゼン生成が起こり、合せてナフタレンやクロロフェノールも増加していることを示します。

② 次はフロン破壊処理時の排ガスを、電荷移動反応モードで運転したコンパクトプロトン移動反応質量分析計でモニタリングする例を示します。 フロン22投入量、排ガス量と残留フロン22濃度から分解効率を計算し、現在の排出基準より厳しいUNEPの推奨値99.99%の常時遵守を連続監視しています。 また破壊処理時のハロゲン系分解生成物や燃焼診断に用いるベンゼンやトルエンなどの指標物質も同時に監視します。


材料





半導体・電子・電機

室内汚染およびクリーンルームの測定

建造物、事務所、車室あるいは航空機機内の室内空気、またクリーンルーム内の空気の揮発性有機化合物や粒子状物質による汚染が話題になっておりますが、 数点のサンプリング分析のみでは発生源の特定や発生の機構には至りません。このような場合、高時間分解能の計測機器で連続測定あるいは多点切換え測定を行うことは有効です。
① 室内での塗装作業後、四重極質量分析計搭載型エアロゾル質量分析計で室内空気の連続測定を行い、生成した二次粒子を検知した例です。 この場合は光化学反応でなく、塗装壁より蒸発したスチレン・アクリル系塗料の成分が、夕方の温度低下により空気中で再凝縮して微粒子を形成したことが理解されます。

② 次は、クリーンルームにおけるフィルターシステムの上流側と下流側で、揮発性有機化合物の濃度を高感度版プロトン移動反応質量分析計で測定した例を示します。 フィルターシステムは正しく機能していることが判ります。


製薬・生化学

生化学・製薬関係

大気モニタリング装置から出発した私共ですので、生化学、製薬分野は最も遠いところにあると思われるかも知れませんが、実は初期の段階から呼気中の一酸化窒素の計測、 口内細菌産生物質のモニタリング、手術中の代謝物質および特定物質の非侵襲のブレスバイブレス分析などに関わってきました。また植物や微生物の代謝物質は常に測定の対象となっております。 様々な科学分野の背景を基に、"リアルタイム"あるいは"迅速分析"を切り口として、メタボローム解析、新薬開発、品質保証および品質管理への新たなソリューションを提供して参ります。
① イオンモビリティ分光質量分析計で、1 %酢酸添加メタノール/水溶媒に溶解したアミノ酸の逆翻訳配列であるペンタペプチドの配座異性体のイオンモビリティスペクトルを取得した例を示します。 質量数246で2箇所プロトン化した2価のイオンを走査しており、配座異性体を明確に分離しています。

出拠 Ching Wuら Washington State University

② 高分解能イオンモビリティ分光飛行時間型質量分析計による人の血液及び大腸菌のメタボローム解析の例で、イオンモビリティスペクトルと質量スペクトルの三次元グラフで示しております。

 

出拠 Herbert H. Hill, Jr.ら Washington State University

医学





エネルギー





法科学・保安

法医学分析、保安検査

危険物や違法薬物を迅速かつ偽判定なく検知することは益々その重要性が認識されつつあります。そこで私共では高分解能イオンモビリティ分光をベースにしたソリューションを提案しております。 ① 本例は5種の主要な爆薬成分である硝酸アンモニウム、トリニトロトルエン、ヘキソーゲン、四硝酸ペンタエリスリトールおよびオクトーゲンを含む9種の爆薬を100ng/mlでメタノール溶媒に溶解して、 エレクトロスプレーイオン化イオンモビリティ分光計で450 msの測定時間のイオンモビリティスペクトルを示します。微量成分や不純物を検知しつつ種類を特定でき、 従来の熱分解―イオンモビリティ分光では検出が困難であった硝酸アンモニウムも高感度に迅速測定できます。

出拠 Clinton A. Krueger Exellims Corporation

② メタノールに溶解した6種類のアンフェタミン誘導体の各種覚醒剤をイオンモビリティ分光質量分析計で分析した例です。約1分の測定時間で、 いずれも数10 pmolの検出限界が得られ、既存のLC-MS分析に比べて迅速です。

出拠 Laura M. Matz、Herbert H. Hill, Jr. Washington State University

③ 本例では空気中のトリニトロトルエンおよびオクトーゲンを、高分解能プロトン移動反応TOF質量分析計により同定し、高感度に検出しています。

その他理工学研究

基礎科学研究分野に関連する分析

私共の取扱うリアルタイム計測機器は、元来、基礎科学研究分野で使用されてきたものであります。従いまして気相反応速度の測定、 取込係数など不均一相の反応速度測定、ヘンリー定数の測定は独壇場とも言えます。