私共の紹介するスイス国Tofwerk AG製の高分解能イオンモビリティ分光飛行時間型質量分析計(IMS-TOF)は、イオンモビリティ分光(IMS)の分解能が300程度までと非常に高く、 異性体分離能に優れる独自な分析装置です。IMSは分離時間100 ms程度までの一種の超高速のクロマトグラフィーとして機能しますが、LCやGCとは異なる機構で分離が行われます。 質量分解能をさらに向上しても異性体分離は困難であり、またピークキャパシティを上げるためには、掛け算で効く異なる分離方式の組合せが有効です。 IMS-TOFは既存のLCやGCの後段に接続が可能です。またIMS-TOFはマルチプレクシングを始めとする独自技術の組合せにより、IMSの高分解能化を達成しています。 IMSの分離指標として測定されるドリフト時間は、有限長さのドリフトチューブをイオンが移動するドリフト速度で除したものであり、ドリフト速度を電場強度で除して規格化した イオンモビリティは、対象物質のイオンと中性分子のドリフトガスの衝突を剛体球衝突として扱い、イオン輸送の理論により衝突断面積(CCS)と関係付けられます。 このことよりドリフト時間は衝突断面積と直接比例するパラメータとなり、また絶対量となることがクロマトグラフィーとは異なる点であります。測定したドリフト時間から 今後はCCSのデータベース化が進むと期待されます。一方、CCSは分子軌道法あるいは密度汎関数法のプログラムによる量子化学計算で対象イオンの安定構造を求め、 MOBCAL等のソフトウエアでドリフトガスとの衝突断面積を求めることができます。この両方向のアプローチにより、今後は未知の異性体の同定も容易化していくものと考えられます。 また多量の純物質を必要とするX線結晶構造解析法や核磁気共鳴法と異なり、高分解のIMS-TOFは電荷に依存したタンパク質の立体構造を少量で簡便に観測できるため、 分子動力学法やモンテカルロ法による分子シミュレーションによる立体構造予測と合わせて、立体構造解析への応用が期待されます。 なお現在、スタンドアローンの高分解能イオンモビリティ分光計の取扱いはなく開発中です。
■ 原 理 ■IMS-TOFはエレクトロスプレーイオン化(ESI)により液体試料をイオン化し、IMSによりイオンの分離、TOFによる質量分析を行います。
イオン化方式をコロナ放電イオン化または二次エレクトロスプレーイオン化に変えることで、気体試料にも適用可能です。
TOFはイオンの質量電荷比の違いによる電場を掛けた真空中での飛行時間が異なることを利用して質量分析を行います。一方、IMSは常圧の高電場中でのイオンの飛行時間
により分離を行います。この高電場のドリフトチューブの圧力を一定に保つため、一般的には窒素を使用するドリフトガスを対向流で流します。
イオン源で連続的に生成したイオンは、ドリフトチューブの手前に設けられたイオンゲート(Bradbury-Nielsen ゲート)で遮断されて脱溶媒和領域に溜り、
一方ドリフトガスはイオンゲートを通過し、定常流を保ちます。電気的にイオンゲートを開けるとイオンはドリフトチューブに流れ込みます。ドリフトガスとイオンは衝突を繰り返し、
大きさ、分子量、形状及び電荷により異なるドリフト速度を示し、ドリフト時間の違いとして分離されます。ドリフト速度とCCSの関係は図中の式で表されます。言いかえれば、
IMSは分子構造情報と密接なCCSを求めるものであるということもできます。
実用化されているIMSの方式としては、進行波IMS(Traveling Wave IMS)及び電場対称性IMS(FAIMS)もありますが、前者はCCSの決定には複雑な補正が必要、
後者は決定そのものが不可能です。IMS-TOFで採用しているドリフトチューブIMS方式は、ドリフト時間から直接CCSを決定できます。
IMSのドリフト時間及びTOFの飛行時間は、典型的にはそれぞれ50 ms及び25 μsであるので、LCやGCの後段に接続して使用することが可能です。
◆ IMS分解能200~300と市販機唯一の高分解能化を実現し、複雑な試料の異性体分離に格段に優位性があります。
◆ IMS走査20~100 ms、TOF走査20~200 μsと高速で、低濃度試料でも1分以内の積算で測定できます。
◆ 密封型ESIイオン源及び二重チャンバー密封型ドリフトチューブの採用で、バックグラウンドノイズを抑制しています。
◆ マルチプレクシング技術及びスループット重視のTOFにより、1 pg(プロゲステロン、1分積算)の高感度を実現しています。
◆ MS/MS類似の衝突誘起解離を適用し、モビリティ選択同時構造解析が可能です。
◆ IMS-MS二次元もしくは三次元情報により、化合物グループ分け及び網羅的分析が容易化します。
◆ 既存のLC及びGC等の後段に接続可能で、ソフトウエアは四次元情報まで対応しています。
◆ CCSを高精度に測定し、タンパク質の立体構造等の構造解析の手段となります。
環境・大気 エアロゾル研究、農薬分析
農学・自然科学 天然物化学分析
食品・香料 食品特性化、食品開発
化学・化学工業 ライフケア製品開発
製薬・生化学 メタボローム解析、リピドーム解析、炭水化物分析、糖鎖分析、ペプチド分析、プロテオーム解析、生体分子コンフォメーション解析
法科学・保安 法医学分析、薬物同定
その他理工学研究 超分子集合体解析
IMS分解能最高300の独自な高速異性体分離分析ツールです。
感度 1 pg(プロゲステロン、1分積算)
IMS分解能 200~300
質量分解能 4,000~7,000